新型コロナウイルスによる整理解雇にご注意ください!!
新型コロナウイルス感染症に関連する解雇や雇止めが増加していると指摘されています。経営が苦しくなっている中、整理解雇(リストラ)を行うことは法律上、問題はないのか。また、労働者に訴訟された場合のリスクについての見解を述べていきます。
なお、新型コロナウイルス感染症の影響により離職した場合は、離職理由に「コロナ関係」と記載をお願いします。リーフレットはこちら。
下記でも述べますが、現在の私の考えとしては、「休業手当を支払う義務はないが、雇用調整助成金も使わず休業手当を支払っていない解雇は不当解雇と見なされる」です。
なお、新型コロナウイルス感染症の影響により離職した場合は、離職理由に「コロナ関係」と記載をお願いします。リーフレットはこちら。
下記でも述べますが、現在の私の考えとしては、「休業手当を支払う義務はないが、雇用調整助成金も使わず休業手当を支払っていない解雇は不当解雇と見なされる」です。
(2020年8月24日 特定社会保険労務士 葛西 佑造)
不当解雇の訴訟による仮処分の報道
不当解雇の訴訟について始めに報道されたのは、東京都内でタクシー事業を展開する「ロイヤルリムジングループ」。東京地裁で同グループに地位確認などを求めた仮処分申請が2020年6月8日にあり、同グループが解雇を撤回し、休業手当や解決金を支払うことで和解が成立しました(東京合同法律事務所の馬奈木厳太郎弁護士が代理人として担当)。その後、同グループは雇用調整助成金の申請を始めたとのことです。
そして、2020年8月21日。仙台市を拠点に営業するタクシー会社「センバ流通」に地位確認や賃金の支払いを求めた仮処分の申し立てに、仙台地裁は解雇を無効として、休業手当相当額の一部を支払うように同会社に命じる決定をしました。斉藤研一郎裁判官は雇用調整助成金を申請すれば休業手当の大半が補填できたと指摘しました。
ロイヤルリムジングループは仮処分の決定前に解雇を撤回し和解しています。センバ流通については仮処分が決定されました。
仮処分とは、裁判には時間がかかるため、債権者(今回の場合は労働者)の保全を認める必要性が高い場合に、仮に一定の権利を認めるものです。
仮処分で認められるのは仮の決定なので、判決が出た場合、判決が優先されます。
さて、裁判官が指摘した雇用調整助成金ですが、申請の締め切りは原則「支給対象期間の末日の翌日から2か月以内」です。特例で1月24日から5月31日までの休業の申請期限は8月31日となっています。
つまり、1月24日から6月30日までの休業については、申請締め切りは8月31日です(新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金は、4月から6月の締め切り日は9月30日です。その後の休業についても、雇用調整助成金と休業支援金・給付金は1か月締め切りがずれている形となっています)。
特例期間(8月31日)間近に雇用調整助成金を使えば良かったのだと言われるのは、酷に感じますね。
そして、2020年8月21日。仙台市を拠点に営業するタクシー会社「センバ流通」に地位確認や賃金の支払いを求めた仮処分の申し立てに、仙台地裁は解雇を無効として、休業手当相当額の一部を支払うように同会社に命じる決定をしました。斉藤研一郎裁判官は雇用調整助成金を申請すれば休業手当の大半が補填できたと指摘しました。
ロイヤルリムジングループは仮処分の決定前に解雇を撤回し和解しています。センバ流通については仮処分が決定されました。
仮処分とは、裁判には時間がかかるため、債権者(今回の場合は労働者)の保全を認める必要性が高い場合に、仮に一定の権利を認めるものです。
仮処分で認められるのは仮の決定なので、判決が出た場合、判決が優先されます。
さて、裁判官が指摘した雇用調整助成金ですが、申請の締め切りは原則「支給対象期間の末日の翌日から2か月以内」です。特例で1月24日から5月31日までの休業の申請期限は8月31日となっています。
つまり、1月24日から6月30日までの休業については、申請締め切りは8月31日です(新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金は、4月から6月の締め切り日は9月30日です。その後の休業についても、雇用調整助成金と休業支援金・給付金は1か月締め切りがずれている形となっています)。
特例期間(8月31日)間近に雇用調整助成金を使えば良かったのだと言われるのは、酷に感じますね。
※ 令和2年8月25日に政府から特例の決定が通知されました。(追記)令和2年8月25日 新型コロナウイルス感染症の影響を受けた事業主に 対する雇用調整助成金等の申請期限を延長しました 『特例で1月24日から5月31日までの休業の申請期限は8月31日』➡『特例の特例で1月24日から6月30日までの休業の申請期限は9月30日までに延長』(仙台地裁の『センバ流通』に対するコロナによる解雇無効が影響か?!) 兵庫県社会保険労務士会所属 明石支部 特定社会保険労務士 葛西 佑造
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整理解雇が認められる要件
労働問題(労使トラブル)のページに書いている通り、
整理解雇には以下の条件を全て満たす必要があります。 1. 人員整理の必要性(人員整理をしなければ事業継続が難しい) 2. 解雇回避努力の履行 3. 解雇する労働者選定の客観的合理性(気に食わない人だけ解雇するというのは合理性に欠けます) 4. 手続きの相当性 整理解雇は最終手段です。その前に、労働者を守る努力をする必要があります。 もちろん、新しい労働者を雇い入れたり、役員報酬を下げなかったりした場合、不適切と見なされます。 |
以上を踏まえ、順番に考えていきます。
1.人員整理の必要性
コロナウイルスの業績悪化が、解雇を行わなければ会社の維持存続が難しいほどの場合、条件を満たしていると言えるでしょう。しかし、これも安易に業績悪化しているからOKと考えるのは危険です。
解雇を行わなければ維持存続が難しいかどうかを客観的に判断しなければならず、コロナ便乗の解雇は認められません。
解雇を行わなければ維持存続が難しいかどうかを客観的に判断しなければならず、コロナ便乗の解雇は認められません。
2.解雇回避努力の履行
タクシー会社「センバ流通」に対して斉藤研一郎裁判官が指摘したのは、回避解雇努力の履行についてです。運転手側の「同社は雇用調整助成金を利用しておらず、解雇を回避する措置を講じていない」という主張を受け入れ、仮処分となりました。
さて、私は令和2年7月17日、トップページで新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金についての見解の中で「使用者の休業手当を支払う義務」について、以下の文を掲載いたしました。
さて、私は令和2年7月17日、トップページで新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金についての見解の中で「使用者の休業手当を支払う義務」について、以下の文を掲載いたしました。
コロナウイルスの影響のため、休業を余儀なくされた場合、使用者の責に帰すべき事由になるのか疑問があります。コロナウイルスは天災といっても過言ではないため、不可抗力であり、支払義務が免除される可能性も当然あると考えています。 その為に、先手を打って、政府は中小企業(個人事業含む)の休業手当補償率を100%にしたのではないかと考えます。これまでに緩和と上限引上げなどの措置を行ってきたのだから、休業手当を支払わない事業主が支払い義務を怠っているとして、事業主の義務を果たしていないと政府は最終的に反論するのだろうか。 |
今回の仮処分は裁判官の判断であり、政府の主張ではありませんが、この仮処分は上記に近いものを感じます。ただ、あくまで仮処分であり、判決ではない(判決は覆される可能性がある)ことは留意してください。今後、判例が出てこなければ、明言ができません。今回の件も和解で済む可能性もあり、判例はまだ先になるかもしれません。
その中で、現在の私の考えとしては、「休業手当を支払う義務はないが、雇用調整助成金も使わず休業手当を支払っていない解雇は不当解雇と見なされる」です。
緊急事態宣言などにより休業せざるを得なくなった場合、使用者の責に帰すべき事由ではなく、休業手当を支払う義務はない(できる限りは、雇用調整助成金等を利用して支払った方が良いとは思っています)。しかし、解雇はできない。
そして、できる限り速やかに営業を再開し、使用者は労働者に働く場を提供する義務があります。
また、コロナによって廃業した場合は当然に、休業手当を支払う義務はありません。
一方、解雇をするのであれば、解雇回避努力をする必要があります。今回の場合、ほぼ「解雇回避努力=雇用調整助成金」と言えるのではないでしょうか。
助成金は後払いであり、休業手当を先に支払う必要があります。その問題については、労働者の休業手当のためという理由で国庫に融資(実質無利子、3年間利子補給あり)を受け、雇用調整助成金を申請できると考えられます。
また、希望退職の募集をする必要もあります。
このような努力をしても解雇せざるを得ない経営状態であるなら条件を満たしたと言えるでしょう。
その中で、現在の私の考えとしては、「休業手当を支払う義務はないが、雇用調整助成金も使わず休業手当を支払っていない解雇は不当解雇と見なされる」です。
緊急事態宣言などにより休業せざるを得なくなった場合、使用者の責に帰すべき事由ではなく、休業手当を支払う義務はない(できる限りは、雇用調整助成金等を利用して支払った方が良いとは思っています)。しかし、解雇はできない。
そして、できる限り速やかに営業を再開し、使用者は労働者に働く場を提供する義務があります。
また、コロナによって廃業した場合は当然に、休業手当を支払う義務はありません。
一方、解雇をするのであれば、解雇回避努力をする必要があります。今回の場合、ほぼ「解雇回避努力=雇用調整助成金」と言えるのではないでしょうか。
助成金は後払いであり、休業手当を先に支払う必要があります。その問題については、労働者の休業手当のためという理由で国庫に融資(実質無利子、3年間利子補給あり)を受け、雇用調整助成金を申請できると考えられます。
また、希望退職の募集をする必要もあります。
このような努力をしても解雇せざるを得ない経営状態であるなら条件を満たしたと言えるでしょう。
3.解雇する労働者選定の客観的合理性
気に食わない人だけ解雇するというのは客観的合理性に欠けます。解雇者の選定については、基準を設定する必要があります。それを公正に適用しなければいけません。
4.手続きの相当性
あらかじめ、労働者に対して整理解雇の必要性と時期、解雇者の選定の基準について説明を行い、誠意をもって話し合う必要があります。突然、書面で一方的な解雇の連絡は手続きの相当性がないと見なされます。
整理解雇を認められる要件を満たしていない解雇をした場合のデメリット
労働問題(労使トラブル)のページの下部で「労働問題の先にあるもの」で書いていますが、労働者から団体交渉、裁判外紛争解決手続(ADR)、労働審判、訴訟(裁判)をされるリスクがあります。
雇用調整助成金の申請は期限があります。その期限内に雇用調整助成金を申請していれば、助成金で支払ができたであろう金額を全て実費で労働者に支払わなければいけないリスクが出てきます。
整理解雇は法律上、簡単に行えませんが多くの企業において意外と簡単に解雇を行っています。労働者も不当だと感じても、弁護士費用と時間がかかることから一人で訴訟まで行う人は稀です。泣き寝入りして失業保険を貰って再就職をする人が多いのが実情だと考えられます。
しかし、集団で不当解雇をされた場合、集団訴訟という方法があり、訴訟に対する敷居が低くなります。
雇用調整助成金の申請は期限があります。その期限内に雇用調整助成金を申請していれば、助成金で支払ができたであろう金額を全て実費で労働者に支払わなければいけないリスクが出てきます。
整理解雇は法律上、簡単に行えませんが多くの企業において意外と簡単に解雇を行っています。労働者も不当だと感じても、弁護士費用と時間がかかることから一人で訴訟まで行う人は稀です。泣き寝入りして失業保険を貰って再就職をする人が多いのが実情だと考えられます。
しかし、集団で不当解雇をされた場合、集団訴訟という方法があり、訴訟に対する敷居が低くなります。